精子が動かない「精子無力症」とは?原因・基準値・治療を解説
「精液検査で運動率が低いと言われた」
「精子があまり動いていないと言われて不安」
「精子無力症だと自然妊娠は難しい?」
男性不妊の検査で、このような悩みを抱える方は少なくありません。
精液検査では、
- 精子の数
- 精子の運動率
- 精子の形態
- 精液量
などを確認します。
その中でも「精子がどのくらい動いているか」は、受精するために重要な要素の一つです。
この記事では、
- 精子無力症とは何か
- 精子運動率の基準値
- 精子が動かなくなる原因
- 検査で何を見るのか
- 治療や生活習慣でできること
について、男性不妊の医学的な考え方をもとにわかりやすく解説します。
▼ 精液検査の基本から知りたい方へ
精子無力症とは?
精子無力症(astenozoospermia)とは、
精液中の精子の運動性が低下している状態を指す言葉です。
精子は、卵子のある場所まで移動し、最終的に卵子と受精する必要があります。
そのため、
精子が前に進む力(前進運動性)は、男性側の妊孕性を考えるうえで重要な指標になります。
ただし、ここで注意したいのが、
「運動率が低い=妊娠できない」
というわけではないことです。
精子の運動率は、あくまでも精液検査で確認する複数の指標の一つです。
実際の妊娠には、
- 精子の数
- 運動性
- 形態
- 卵子の状態
- 女性側の年齢
- 卵管や子宮の状態
- 性交のタイミング
など、さまざまな要素が関係します。
精子の「運動率」とは?
精子の運動率とは、
精液中に存在する精子のうち、動いている精子がどのくらいいるかを示す数値です。
ただし、精子の動きにはいくつかの種類があります。
① 前進運動精子
前進運動精子とは、
前に向かって進んでいる精子です。
卵子に向かって移動するためには、この前進する能力が重要になります。
② 非前進運動精子
動いてはいるものの、
前に進んでいない精子です。
その場で動いたり、円を描くように動いたりする場合があります。
③ 不動精子
動きが確認できない精子です。
精液検査では、これらの運動状態を確認し、
精子がどの程度動いているのかを評価します。
WHOの精子運動率の基準値
精液検査の基準を考えるうえでは、
WHO(世界保健機関)の「ヒト精液検査と処理に関するマニュアル」第6版(2021年)が重要な参考になります。
WHO第6版では、自然妊娠に至った男性約3,500人のデータをもとに、精液所見の下限基準値が示されています。
| 項目 | WHO第6版 下限基準値 |
|---|---|
| 総運動率 | 42% |
| 前進運動率 | 30% |
| 精子濃度 | 16百万/mL |
| 総精子数 | 3900万個/射精 |
| 正常形態率 | 4% |
WHO第6版の下限基準値は、
総運動率42%、前進運動率30%です
ここが重要です。
この数値を下回ったからといって、
「妊娠できない」という意味ではありません。
WHOの基準値は、妊娠できる男性とできない男性を明確に分ける「合否ライン」ではありません。
精子濃度・運動率・形態などを総合的に評価することが重要です。
「運動率が30%」なら精子無力症?
例えば、精液検査で前進運動率が30%だったとします。
WHO第6版の下限基準値は30%なので、
数値だけを見れば基準値の下限付近ということになります。
しかし、
「30%だから精子無力症」「29%だから不妊」
という単純な判断はできません。
精液検査の結果は、
- 精子濃度
- 総精子数
- 総運動率
- 前進運動率
- 正常形態率
- 精液量
などを組み合わせて考える必要があります。
また、精液所見は採取時の体調や禁欲期間などによっても変動します。
そのため、一度の検査結果だけで判断せず、
必要に応じて再検査を行うことも重要です。
精子が動かなくなる原因
精子の運動性が低下する原因は一つではありません。
代表的なものとして、
- 精索静脈瘤
- 感染症・炎症
- ホルモン異常
- 精巣の機能低下
- 喫煙
- 過度な飲酒
- 肥満
- 運動不足
- 高温環境
- 酸化ストレス
などがあります。
特に男性不妊では、
生活習慣や身体的な病気が精液所見に影響している場合があります。
欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでも、肥満、運動不足、喫煙、高い飲酒量などは精子の質低下と関連するとされています。
精子無力症と酸化ストレス
精子の運動性を考えるうえで、
酸化ストレスも重要なテーマの一つです。
精子は細胞膜に多価不飽和脂肪酸を多く含むため、酸化ストレスの影響を受けやすいと考えられています。
酸化ストレスが強くなると、
- 精子の運動性低下
- 精子DNAへのダメージ
- 受精能力への影響
などにつながる可能性があります。
そのため、男性不妊では単純に「精子の数を増やす」だけではなく、
精子が良好な状態で作られる環境を整えることも重要になります。
精子無力症はどうやって検査する?
精子の運動性を調べる基本的な検査が、
精液検査です。
精液を採取し、
- 精液量
- 精子濃度
- 総精子数
- 総運動率
- 前進運動率
- 精子形態
などを確認します。
特に精子無力症が疑われる場合は、
「どのくらいの精子が、どのように動いているのか」
を確認することが重要です。
精液検査は1回だけで判断しないことも重要
精液所見は、毎回まったく同じになるわけではありません。
- 禁欲期間
- 発熱や体調不良
- 睡眠
- ストレス
- 飲酒
- 採取時の状況
などによって結果が変動することがあります。
そのため、異常が見つかった場合には、
再度精液検査を行って確認する
ことがあります。
一度の検査結果だけで、
「自分は精子無力症だから妊娠できない」
と決めつけないことが大切です。
精子無力症の原因を詳しく調べる検査
精液検査で運動率の低下が続く場合には、
なぜ精子が動きにくくなっているのか
を調べることも重要です。
必要に応じて、
- 問診・身体診察
- 超音波検査
- ホルモン検査
- 感染症の検査
- 遺伝学的検査
などが検討されます。
特に、
精索静脈瘤
は男性不妊の原因として重要です。
精索静脈瘤では精巣周囲の血流環境が変化し、
精子の産生や運動性に影響することがあります。
▼ 精索静脈瘤について詳しく知りたい方へ
精子無力症の治療は?
精子無力症の治療は、
「運動率を直接上げる治療」だけを行うわけではありません。
まず重要なのは、
精子の運動性を低下させている原因を見つけること
です。
原因によって治療方法は異なります。
① 精索静脈瘤がある場合
精索静脈瘤が男性不妊の原因と考えられる場合には、
泌尿器科などで治療について検討します。
精索静脈瘤の程度や精液所見、
妊娠を希望する期間などを踏まえて、
手術などの治療が選択される場合があります。
② ホルモン異常がある場合
精子は精巣で作られますが、
その働きには視床下部・下垂体・精巣のホルモン環境
が関係しています。
ホルモン異常が見つかった場合には、
原因に応じた治療が必要になります。
③ 感染や炎症がある場合
生殖器に感染や炎症がある場合には、
その原因に応じた治療を行います。
炎症が長く続くことで精液所見に影響する場合もあるため、
必要に応じて医療機関で評価してもらうことが大切です。
生活習慣の見直しも大切
明らかな病気が見つからない場合でも、
生活習慣を見直すことは男性不妊対策の基本です。
特に意識したいのが、
- 禁煙
- 適度な運動
- 適正体重の維持
- 十分な睡眠
- 過度な飲酒を避ける
- バランスの良い食事
- 精巣を高温環境に長時間さらさない
などです。
男性の精子形成には時間がかかるため、
今日から生活を変えたから、明日の精液検査が大きく変わる
というものではありません。
継続的に身体の状態を整えていくことが重要です。
▼ 精子の運動率を上げるためにできること
精子無力症でも自然妊娠できる?
精子の運動率が低いからといって、自然妊娠ができないわけではありません。
妊娠には、
- 精子の数
- 精子の運動性
- 精子の形態
- 女性側の年齢
- 排卵
- 卵管の状態
- 性交のタイミング
など、さまざまな要素が関係します。
そのため、
精子の運動率だけを見て妊娠の可能性を判断することはできません。
一方で、運動率の低下が強く、他の精液所見にも異常がある場合には、
自然妊娠が難しくなる可能性があります。
その場合には、
人工授精(AIH)や体外受精(IVF)など、
状況に応じた生殖補助医療を検討することがあります。
精子無力症と人工授精(AIH)
人工授精では、
採取した精液から状態の良い精子を選別し、
子宮内へ注入します。
そのため、
軽度〜中等度の精子運動性低下
では、人工授精が選択肢になることがあります。
ただし、
- 精子濃度
- 運動率
- 総運動精子数
- 女性側の年齢
- これまでの治療歴
などを総合的に判断する必要があります。
精子無力症と体外受精・顕微授精(ICSI)
精子の運動性が大きく低下している場合には、
体外受精や顕微授精(ICSI)
が検討されることがあります。
特に顕微授精では、
運動している精子を選び、卵子へ直接注入する
方法が用いられます。
そのため、
自然妊娠や人工授精では難しいケースでも、
受精の機会を作れる可能性があります。
ただし、顕微授精を行えば必ず妊娠するわけではありません。
卵子の状態や胚の発育、
子宮環境など、
妊娠には女性側を含めたさまざまな要因
が関係します。
「運動率を上げる」だけを目標にしない
男性不妊の相談では、
「どうすれば運動率が上がりますか?」
という質問をよく受けます。
もちろん精子の運動性は重要です。
しかし、本当に大切なのは、
「運動率という一つの数字を上げること」だけではありません。
例えば、
- 精子を作る環境
- 精巣周囲の血流
- ホルモン環境
- 酸化ストレス
- 睡眠
- 体重
- 喫煙や飲酒
などを総合的に見ていく必要があります。
「なぜ運動率が低いのか?」
ここを考えることが、
男性不妊対策のスタートになります。
精子無力症に鍼灸は効果がある?
精子無力症に対して、
「鍼灸を受ければ精子の運動率が上がるのか?」
と気になる方もいると思います。
鍼灸は、精子無力症そのものを直接治療するものではありません。
一方で、
- 睡眠
- ストレス
- 自律神経
- 身体の緊張
- 血流
など、
精子を作る身体環境を整えるためのサポート
として取り入れることはできます。
男性不妊では、
「精子そのもの」だけを見るのではなく、
精子が作られる身体全体の環境
を見ることも大切です。
男性不妊の鍼灸で意識したいポイント
① 骨盤・下腹部周囲の血流
精巣は精子を作る重要な器官です。
そのため、
骨盤や下腹部周囲の血流を含め、
身体全体の循環を整える
ことが身体づくりの一つになります。
ただし、
「血流を改善すれば必ず精子の運動率が上がる」
という単純な関係ではありません。
あくまで身体全体の状態を整えるという視点が重要です。
② 自律神経のバランス
妊活中の男性では、
仕事や治療へのプレッシャーなどから、
慢性的な緊張状態になっている方も少なくありません。
交感神経が優位な状態が続くと、
- 眠りが浅い
- 身体が休まらない
- 疲労が抜けない
- ストレスを感じやすい
などにつながります。
鍼灸では、
身体の緊張を緩め、
リラックスしやすい状態を作ること
をサポートします。
③ 睡眠・疲労の改善
睡眠は、
男性の健康状態を考えるうえでも重要です。
睡眠不足や慢性的な疲労がある場合には、
まず生活リズムを見直すことが大切です。
鍼灸を受ける場合も、
「精子の運動率を直接上げる」というより、
睡眠や疲労、ストレスなどを含めた身体の状態を整える
という考え方が適しています。
精子の運動性を保つために気をつけたい生活習慣
精子の状態は、
日々の生活習慣とも関係しています。
特に見直したいのが、
- 喫煙
- 過度な飲酒
- 運動不足
- 肥満
- 睡眠不足
- 慢性的なストレス
- 精巣を高温環境に長時間さらすこと
です。
男性不妊では、
「何か特別なことをする」よりも、まずマイナス要因を減らすこと
が重要になる場合があります。
精巣を温めすぎないことも大切
精子を作る精巣は、
体温より少し低い温度に保たれる環境にあります。
そのため、
- 長時間のサウナ
- 長時間の高温環境
- 膝の上で長時間パソコンを使用する
など、
精巣周囲を長時間高温にする習慣は、
できるだけ避けることがすすめられます。
もちろん、
一度サウナに入ったから精子が悪くなる、
というような単純な話ではありません。
慢性的・反復的な高温曝露を避ける
という考え方が大切です。
食事で意識したいこと
精子の状態を整えるためには、
特定の食品だけを食べればよいわけではありません。
まずは、
バランスの良い食事を継続すること
が基本です。
- 魚
- 肉
- 卵
- 大豆製品
- 野菜
- 果物
- 全粒穀物
などを組み合わせ、
さまざまな栄養素を摂取しましょう。
また、
過度なダイエットや極端な食事制限は、
身体全体のコンディションを崩す可能性があります。
「精子のために何かを足す」だけではなく、
身体に必要な栄養を不足させない
ことも大切です。
精子無力症は改善することがある?
精子の運動率が低かったとしても、
原因によっては改善する可能性があります。
例えば、
- 生活習慣の改善
- 禁煙
- 体重管理
- 感染症や炎症の治療
- 精索静脈瘤への対応
- ホルモン異常への治療
などによって、
精液所見が変化する場合があります。
ただし、
すべてのケースで運動率が改善するわけではありません。
年齢や精巣機能、遺伝的要因など、
生活習慣だけでは変えられない要素もあります。
そのため、
「生活習慣を変えれば必ず治る」
と考えるのではなく、
医療機関で原因を確認しながらできることを積み重ねる
ことが大切です。
こんな場合は泌尿器科・男性不妊専門医へ
以下のような場合には、
一度専門の医療機関で相談することをおすすめします。
- 精子運動率の低下を繰り返し指摘される
- 精子濃度も低い
- 精液量が少ない
- 精索静脈瘤が疑われる
- 精巣の痛みや腫れがある
- 性機能に悩みがある
- 妊活を続けてもなかなか結果が出ない
特に、
精液検査で複数の項目に異常がある場合
には、
単純に「運動率を上げる」ことだけを考えるのではなく、
原因を調べることが重要です。
精子無力症でも妊娠を諦める必要はない
「精子の運動率が低い」
と言われると、
「自分が原因で妊娠できないのでは?」
と悩んでしまう方もいます。
しかし、
精子の運動率だけで妊娠の可能性が決まるわけではありません。
精液所見には変動もありますし、
男性側・女性側それぞれにさまざまな要因があります。
また、
自然妊娠だけではなく、
人工授精や体外受精、
顕微授精など、
状況に応じて治療方法を選択することもできます。
精子無力症と診断されたことは、妊娠の可能性がなくなったという意味ではありません。
まとめ|精子無力症は「数字だけ」で判断しない
精子無力症とは、
精子の運動性が低下している状態
を指します。
WHO第6版では、
- 総運動率:42%
- 前進運動率:30%
が下限基準値として示されています。
ただし、
これらは妊娠できる・できないを決める境界線ではありません。
重要なのは、
- 精子の数
- 運動性
- 形態
- 女性側の年齢
- 卵子や胚の状態
- 子宮・卵管の状態
などを総合的に考えることです。
そして、
精子の運動性が低い場合には、
- 精索静脈瘤
- ホルモン異常
- 感染・炎症
- 生活習慣
- 喫煙や飲酒
- 睡眠不足
- 高温環境
など、
改善できる原因がないかを確認すること
が大切です。
数字だけを見て落ち込むのではなく、
「なぜ運動率が低いのか?」
を考えることから始めてみましょう。
よくある質問(FAQ)
精子無力症とは何ですか?
精子無力症とは、精子の運動性が低下している状態を指します。特に、前に進む精子の割合が低下している場合には、受精に必要な移動能力が低下している可能性があります。
精子の運動率は何%あれば正常ですか?
WHO第6版では、総運動率42%、前進運動率30%が下限基準値として示されています。ただし、これは妊娠できる・できないを判断する絶対的な基準ではありません。精子濃度や形態など、他の検査結果と合わせて判断します。
精子の運動率が低いと自然妊娠できませんか?
いいえ。運動率が低くても自然妊娠する可能性はあります。妊娠には精子の数や運動性だけでなく、卵子の状態、排卵、卵管、女性側の年齢など多くの要因が関係します。
精子の運動率は改善できますか?
原因によっては改善する可能性があります。禁煙、適正体重の維持、適度な運動、十分な睡眠、過度な飲酒を避けることなど、生活習慣の見直しが基本です。また、精索静脈瘤やホルモン異常など原因が見つかった場合には、医療機関での治療が重要です。
精子無力症に鍼灸は効果がありますか?
鍼灸は精子無力症そのものを直接治療するものではありません。睡眠、ストレス、自律神経、身体の緊張、血流などを整えることで、男性の妊活を身体づくりの面からサポートする方法として考えることができます。
精子無力症なら体外受精をした方がいいですか?
必ずしも体外受精が必要とは限りません。精子の運動率だけでなく、精子濃度、総運動精子数、女性側の年齢や卵管の状態、これまでの治療歴などを総合して治療方法を決めます。人工授精や体外受精、顕微授精が選択肢になる場合もあります。
精子無力症は治りますか?
原因によっては精液所見が改善する場合がありますが、すべてのケースで改善するわけではありません。精索静脈瘤、ホルモン異常、感染症など治療可能な原因がないかを確認し、生活習慣も含めて総合的に取り組むことが大切です。
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精液検査の結果を見て、
「運動率が低いけど大丈夫なのか」
「何から改善すればいいのかわからない」
と悩む方は少なくありません。
当院では、
男性の妊活に対して、
- 身体の緊張やストレス
- 睡眠状態
- 自律神経
- 血流
- 生活習慣
などを確認しながら、
妊活に向けた身体づくり
を鍼灸でサポートしています。
精液検査で異常を指摘された場合は、
まず泌尿器科・男性不妊専門医などで原因を確認することが大切です。
そのうえで、
「生活習慣を見直したい」
「睡眠やストレスを整えたい」
「次の治療に向けて身体の状態を整えたい」
という方は、鍼灸を身体づくりの一つとしてご活用ください。
※無理な勧誘は一切ありません









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