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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?

多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)は生殖可能年齢(初潮~閉経まで)の女性5〜8%にみられる体質です。子宮内膜症や子宮筋腫の様に、日々の生活の中で徐々に変化していくものではなく、生まれつきのもので、当院にも多くの患者様が来院されます。ほとんどの方が過去に月経不順を経験していたり、排卵障害を抱えていて、不妊症の主要な要因として位置づけられます。そこで、多嚢胞性卵巣症候群について解説をしていきたいと思います。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: polycystic ovary syndrome)とは、卵巣の中に多くの卵胞(たまご)が溜まっている状態に加えて、月経異常やホルモン異常などの症状がみられる状態を指します。卵巣に卵胞が溜まってしまう要因として、卵巣の中のホルモンバランスが乱れることで引き起こると言われています。ホルモンバランスが崩れると、まず排卵障害が発生し、次に月経異常に繋がります。排卵障害が続くと、稀発月経(月経周期が39日以上)や無月経など月経異常の悪化だけではなく、男性化や太りやすくなるなど、他の症状も引き起こすという悪循環が起きやすい障害です。

POINT

卵巣の中で悪循環が起きている

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状は?


PCOSの症状は様々です。ただ、ほとんどの方が学生時代などに月経異常の経験をされています。他には排卵障害(70%)高プロラクチン血症、肥満、多毛、ニキビなど、女性の悩みになりやすい症状が多くあります。これは男性ホルモンが卵巣の中で増えてしまったことが要因で、思春期~青年の男性に多くみられる症状に近いものが身体に現れます。海外の文献では肥満(BMI30以上等)を併発することが多いですが、日本人女性の場合、痩せ型PCOSの方がほとんどです。その為、痩せているからPCOSではないと判断するのは注意をしましょう。

POINT

月経異常はほぼ全員経験している
海外では肥満も併発するが、日本では痩せ方のPCOSが多い

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は諸説あり、現在でもはっきりとした原因は分かっていません。ただし、全般的にインスリン抵抗性が高いことが分かっています。

・インスリン抵抗性を説明する前に、先にインスリンの働きをご説明いたします。
インスリンの主な働きは、血糖値を下げること。これは、血液の中の糖を各器官(筋肉・肝臓・脂肪がメイン)へ送り込み、血液の中の糖を減らすことで血糖値を下げます。他にも排卵を促すLHホルモン(以下LH⇒黄体形成ホルモン)の分泌を高める作用もあります。

・インスリン抵抗性とは、このインスリンの効果が効きにくくなった状態です。インスリンの効果が弱いため、さらにインスリン増やして作用させようと働きます⇒『インスリンの過剰分泌』 その結果、インスリンとLHが正常よりも多い状態となり、LHが作用する卵巣で、好ましくない環境が作られます。

・インスリンとLHは卵巣で男性ホルモンの生産も促します。すると、卵巣の中では男性ホルモン多い状態となり、この状態が続くと排卵障害を引き起こすといわれています。さらに、卵巣は排卵を促そうとLHの分泌を高めるため、結果的に男性ホルモンが増えてしまう悪循環に繋がります。⇒男性化(ニキビ・多毛・声の低さなど)

POINT

インスリンの効きが悪い状態が続くと症状も悪化する
筋肉・肝臓・脂肪を働かせること、血糖値をコントロールすることが大切

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断は?

代表的なものとして日本産婦人科医会の3つの検査項目があり、全てに該当した場合に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されます。

①月経異常
稀発月経、頻発月経、無月経、無排卵性周期症

②多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)
超音波検査で卵巣の中を見てみると、両方の卵巣に排卵されずに溜まった卵胞がたくさんあり、少なくとも一方の卵巣で2~9mmの小嚢胞が10個以上存在するもの⇒ネックレスサインと呼ばれる特徴的な画像が確認される。

③LH基礎値高値かつFSH基礎値正常
(LH≧7mIU/ml かつ LH≧FSH)
正常な場合…FSH:LH⇒2:1~3:1
PCOSの場合…FSH:LH⇒1:1 または、血中男性ホルモン値の高値

FSH=卵胞刺激ホルモン⇒卵胞を育てるホルモン
LH=黄体形成ホルモン⇒排卵を促すホルモン

ちょっと詳しく⇒日本産婦人科医会 月経周期と女性ホルモンのメカニズム

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は妊娠が難しいの?

多嚢胞性卵巣症候群では排卵を待っている卵が多く溜まっている状態です。適切な治療により、成熟卵が育てば妊娠は可能です。実際、治療を行い約8割の方は妊娠されており、疾患のない方と比べて卵質が悪くなることもありません。クリニックでの治療は、診察の上、排卵障害の場合は排卵誘発剤の使用、インスリンへの抵抗性が高い場合は糖尿病薬の服用となることが多いです。鍼灸では卵巣に働きかけるツボを刺激したり、自律神経を整えることで排卵しやすい身体づくりをしていきます。他にも食生活や運動習慣を見直し、インスリン抵抗性を低くすることで症状の緩和も可能です。あきらめずに向き合い、ゴールを目指しましょう。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療方法は?

多嚢胞性卵巣症候群の症状は様々で、それぞれに合った処置を行いますが、インスリン抵抗性を下げる治療がメインとなります。鍼灸や漢方療法の場合は別の視点で処置を行っていきます。

  1. 食事療法
  2. 運動療法
  3. 薬物療法
  4. 鍼灸療法
  5. 漢方療法

1.食事療法
糖質制限がメインとなります。食べる食品、順序などに気を配り血糖値の急上昇を防ぐことでインスリン抵抗性を低くします。
・血糖値が上がりやすい食品(高GI)《※GI=グリセミックインデックス…血糖値の上がりやすさを数値にしたもの》を避ける
・ミートファーストを心がける
・繊維質の多い食事を心がける等

2.運動療法
高BMI~低BMIまで関わりなく、運動習慣がない場合に有効です。主に筋肉でのインスリン抵抗性を下げます。
できれば毎日15分以上の運動(少し息が上がる程度の)を心がけましょう。

3.薬物療法
クリニックにて診察の上、医師の判断によります。主に、排卵が起きない場合はクロミッド・レトロゾールなど排卵誘発剤の使用、高BMIでインスリン抵抗性が高い場合はメトホルミンなどの処方をされることが多いようです。

4・5.鍼灸・漢方療法
身体の状態を見て判断をしますが、全般に瘀血を流す処置をしていきます。瘀血は東洋医学特有のもので、身体の中に溜まった古い血が全身に悪い作用を引き起こすとされています。特に、下腹部に溜まりやすく卵胞の成長を妨げたり、子宮環境を悪くすると捉えられています。その為、鍼灸ではツボを使って瘀血を流す、漢方では体質によって生薬の配合を変え瘀血を流す⇒【駆瘀血】処置をしていきます。

おわりに

「PCOSだから妊娠ができない…」と考えず、多嚢胞性卵巣症候群はあくまで『体質のひとつ』として捉えて頂けたらと思います。決して妊娠・出産ができないものではなく、正しい処置を行えば妊娠・出産まで至れます。ただし、妊活中はおいしいスイーツや高級店のお食事など、至福のひと時をちょっと我慢しなくてはいけない辛さはあるかもしれません。それでも、体質と向き合い、努力する姿は素敵だと思いますし、きっとその先にゴールがあると私達は思います。上手に付き合って体質を改善していきましょう。

鈴木大樹
東京鍼灸京橋
新橋・日本橋エリアで働く鍼灸師です。PCOSや食生活改善に強みあり。授かりに向けて施術を行いつつ、不妊に悩む方に向けて妊活コラムを書いています。

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